完走対象から除外する区間

 先に述べた完走対象の例外規定である。

 国道について調べるうちに,通行が不可能または極めて困難な区間が存在することを知り,それを完走対象から除外しないと国道完走が成り立たないということが分かってきた。そして,検討の結果,約90区間ある分断区間と,数区間ある原発事故による立入規制区域については完走対象から外すことにした。また,逆に,それ以外の区間は完走対象から外さないこととした。これは,災害/工事/催事等による通行止区間であっても完走対象から除外しないことを意味する。

 これらのことについて,以下で順にもう少し詳しく見てみる。

海による分断区間は除外する

海上国道と航路

 海による分断区間は,海を挟んで両側の陸地に同じ路線番号の国道がありながらも両者を結ぶ道路がない区間のことである。分断区間は全部で約90あるが,海上分断区間はその約半数を占める。当初から国道完走は車を使うのが前提だったので,海上区間は完走対象から外すことに決めていた。

 しかし,国道フェリーなるものが分断区間に運航していることを知り,海上区間も通行できる可能性があることが分かった。例えば,国道197号では,愛媛県西宇和郡伊方町の三崎港と大分県大分市の佐賀関港との間に国道九四フェリーが運航している。その名の通り国道の経路の一部を成していて,道路はないけれども通行はできる。海上区間がこのようなものばかりであれば,道路ではないけれども完走対象に含めるのも悪くない。そうも思えてきた。

道路の分断点と航路の不一致

 そこで,運航されている航路について調べてみたのだが,残念ながらそう都合よくはいかないらしいことが分かった。航路がなかったり,航路が国道の分断点とずれていたりする海上区間があるのだ。

 例えば,国道16号は千葉県富津市富津神奈川県横須賀市走水との間に海による分断区間があるが,この区間には運用されている航路はない。また,国道58号では種子島奄美大島との間も同じくフェリー等は運航していない。

 国道279号は青森県の大間港と北海道の函館港との間に分断区間があり,両港間にはフェリー航路がある。しかし,大間側の道路の分断点大間のフェリー発着所とは直線距離で約600m離れている。このずれのある航路を国道279号の経路として認めていいかどうかは微妙なところである。函館側はもう少し顕著で,函館側の道路の分断点函館のフェリー発着所との間は直線距離で約5kmある。この航路を国道279号の経路とするのはかなり苦しいと感じる。

海上分断区間は完走対象から除外する

 国道の分断点と航路とのずれが比較的少ない航路については,そのずれには目を瞑って国道の経路とみなす選択肢もあった。しかし,どうしても「起点から終点まで一本の線で結ぶ」という基本方針から外れてしまう気持ち悪さは拭えなかった。このため,これらの区間はずれの多少にかかわらず,完走対象から外すことにした。

 こうして,ずれのある区間ともともと航路のない区間を除くと,残るは分断区間を忠実に運航している海上区間だけである。これは全海上区間の半数にも満たない。この少なさでは,すべて船で通行したところで海上区間をすべて完走したとは言えないような気がした。先に述べたように,当初から国道完走は車を使うのが前提だったこともあり,結局,海上区間は思い切ってすべて完走対象から外すこととした。

陸上の分断区間も除外する

 陸上の分断区間は,分断点と分断点との間が国道として車道が供用されていない区間のことである。2015年現在,40か所以上ある。分断区間というくらいだから通行できないと思われるが,実際にはどのような区間なのだろうか。分類し,それぞれを少し調べてみることにした。

点線国道

 点線国道は,地理院地図で国道を示す赤色で描かれながらも,点線で表される道のことである。地図では点線区間もそうでない区間も赤い線がつながっているので,地図上は分断していないように見える。しかし,点線区間は幅員が1.5m未満とされ,基本的には登山道である。車は通れない。2015年現在,国道152号(地蔵峠),256号(小川路峠),289号(八十里越),291号(清水峠),371号(高野峠)の5路線に点線区間がある。

 点線区間は登山道が基本だが,必ずしも整備されていない。例えば,国道371号の点線区間は登山道が消失している部分が多く,遭難する危険性が高いという。国道152号の地蔵峠区間にも登山道がはっきりしない部分があるようだ。また,国道291号に至っては点線国道さえも途中で切れている。ちなみに,途切れているのは明治時代に建設された清水国道が廃道化した区間であり,地理院地図にはもはや点線でさえも描かれていない。

 このように,点線国道は通行すべき経路が明瞭でない場合があるため,すべて完走対象から除外することとした。

道路はあるが国道ではない区間

 分断区間に道路があるものの,それがどういうわけか国道指定されておらず,国道としては未開通扱いとなっている区間がある。例えば,国道403号の県境付近がそうである。新潟県側から長野県側に向かって進んでいくと,県境から約2kmに渡り,道路があるにもかかわらず国道指定されていない。地図を見ての通り,分断点には交差点があるわけでもなく,前後で道路状況が変わるわけでもない。地図がなければ気付かずに通過してしまいそうな分断区間である。

 このような分断区間は他に,国道193号,360号,371号,417号にも見られる。これらの区間は国道ではないのでそもそも完走対象ではない。

建設中,計画中,または,建設計画がない分断区間

 ここまで述べた以外の分断区間はこれに該当する。自動車専用道路として計画された路線や険しい山岳地帯に多い。例外としては,国道298号,国道365号,国道455号のように市街地にあるものや,国道398号のように地震で落橋してできたもの,国道401号の尾瀬区間のように環境保護の観点から建設工事が中止されたもの等がある。

 いずれにせよ,これらの分断区間はそこに国道があるとは言えない状態であり通行しようがないので完走対象から除外することとした。

福島第一原子力発電所の事故に伴う立入規制区間も除外する

 福島県の国道114号,288号,399号,459号の一部は,福島第一原子力発電所の事故に伴う立入規制区域を通る。原発事故の前に通行できればよかったのだが,前年の秋に始めた国道完走プロジェクトにとっては急な出来事であり間に合わなかった。それでも,何とか通行する手立てがないものか検討してみた。

 原発事故に伴う立入規制区域は,時間の経過とともに名称や範囲が変遷してきた。2011年4月22日には災害対策基本法に基づく警戒区域が設定され,許可なく区域内に滞在することは罰則付きの違法行為となった。2012年4月以降,順次,「避難指示解除準備区域」「居住制限区域」「帰還困難区域」の3区分への再編が進み,2013年5月28日にそれが完了して警戒区域はなくなった。この状態は2015年8月現在も続いている。なお,再編後の規制区域については無許可立ち入りに罰則はないことになっている。

 しかし,罰則がないとはいえ,この区間の国道を通行するのは相当な困難を伴うと考えられる。まず第一に,道路上の規制区域入口にはゲートがあり,日中は警備員が常駐しているということ。第二に,そのゲートは許可車両のみ通行できるということ。そして第三に,規制区域内では犯罪防止のため,警察官が常時巡回しているであろうこと。これらが主な通行困難の要因である。

 そこを通行するための選択肢としては,例えば,次のようなものがありそうだ。

  1. 通行許可証を申請して入手する
  2. 規制解除まで待つ
  3. 忍び込む
 しかし,いずれも現実味に乏しい。そこに家や仕事や縁がない身としては通行証の取得は難しく,国道完走は5年計画なので時期の見通しの立たない規制解除を待つわけにもいかない。そして,忍び込むというのは,まあ論外だろう。

 というわけで,原発事故の立入規制区間は完走対象から除外し,規制区間端点の検問またはゲートまでを通行対象とした。

それ以外は除外しない

 完走対象から除外する区間は以上である。裏を返すと,それ以外の区間は通行止があってもそこを通行しない限り完走とはならない。例えば,冬季閉鎖中だったり,土砂崩れで通行止だったりしても日を改める等,何とかする必要があるということである。この種の通行止は永続的なものはほとんどないので,規制解除されてから通行すれば完走できることが多い。したがって,もう一度訪れる手間がかかることを除いては通行に問題はないと考えられるし,事前に現地の交通規制情報を予め確認しておけばその手間も予防できる。むしろ,通行止をうまくやりくりする訪問計画立案にパズル的な楽しみを見出すことすらできるかもしれない。


作成日:2015/08/19
更新日:2016/03/11