ルール4. 分断区間の定義 (と分断点の推定)

 分断区間を持つ国道を完走するには,どこからどこまでが分断区間かを明確にする必要があるが,意外と難しい。「地図に車両通行可能な国道として記載されない区間」と定義してみてはいるものの,分断区間の両端の地点,いわゆる分断点の特定が容易でない場合が少なくない。

 一定の正確性を求めるなら道路台帳等の資料を参照するといいのかもしれないが,ネット上で閲覧できるよう整備されているとは言い難い。閲覧には平日の日中に遠方各地まで出向く必要があるなど,困難を伴い現実味に乏しい。

 一方,ネットで手軽に閲覧できる資料は正確性や網羅性が不十分で,それだけでは分断点を特定できない。例えば,地図の場合は,複数の地図間で分断点の位置が異なっていたり,どの地図も誤っていたりするなど正確性に難がある。また,道路管理者の守備範囲を示す道路管内図は正確性は高いものの,すべての地域の分が揃っているわけではなく網羅性に欠ける。

 ならば,現地の状況はどうか。分断点に標識や目印くらいあるだろう,と思わないでもないが,実際のところ,そういうものがないことも多い。したがって,これも分断点特定に常に役立つとまでは言えない。

 このように分断点特定の万能薬がないため,分断点はそれら各種材料から分かる範囲で総合的に推定することになる。あくまで推定なので正しいという確証はない。しかし,手持ちの材料から多少なりとも裏付けされた分断点を導き出しておくことで迷いなく国道完走に臨みたい。

3つの地図で分断点を調べる

 分断点を調べる取っ掛かりは地図である。国道は他の道路と異なる色で描かれるので,その地図がどこを分断点としているかがわかる。そこで,まずは複数の地図を見比べ,分断点になり得る候補地点を洗い出す。当プロジェクトでは次の3つの地図を用いた。

  1. 地理院地図
  2. MapFan Web
  3. Googleマップ

 地理院地図は国土交通省の機関である国土地理院が作成する地図である。国の機関の地図ということもあり一定の信頼度がある。また,最近は新規開通道路が以前よりも早く地図に反映されているようで,その点も評価できる。分断点の主張は妥当なものが多い。

 MapFan Webは分断点が他の地図と異なることが比較的多い。他の地図で分断点の見解が一致しても,MapFanWebだけ異なる主張をすることがある。分断点の突飛な誤りもときどき見られる。このように,分断点に関してはいわば異端の地図だが,それが常に誤っているわけでもないから油断できない。

 Googleマップは航空写真やストリートビューなどを組み合わせた多機能な地図であり,現地の様子を見るのに役立つ。KMLとAPIを用いて独自の地図を表示できるなど,応用の幅が広いのも特長である。分断点の主張は妥当なものが多いが,地理院地図やMapFanWebとの見解の相違がときどき見られる。

 これら3つの地図の主張する分断点の位置が同じなら他の材料から主張の補強を試みる。また,相違がある場合はどの地図の主張が他の材料からより強く裏付けられるかを調べて分断点を推定する。

 なお,他にも次のような地図がネットで利用できるが,同じ地図会社の情報をもとに作成されているのか,分断点の位置の見解は常にGoogleマップと同じなので分断点推定の目的では使わない。

地図以外の資料で分断点を調べる

 地図以外では次のような資料を分断点推定に用いた。これらの資料には正確度や更新頻度等に差があるのでそれをふまえて利用する。

  1. 都道府県報
  2. 管内図 (各道路管理者)
  3. 道路交通センサス (国土交通省)
  4. 道路統計年報 (国土交通省)
  5. 道路時刻表
  6. Wikipedia

都道府県報 (正確度:高,網羅度:中,更新頻度:高)

 都道府県報は条例や規則等を公表するための機関紙である。都道府県管理の国道に関する事項も掲載され,国道経路の改廃を知るのに極めて有用である。分断点を含む区間に何か異動があればもれなく掲載されるため,その内容から分断点を特定し得る。
 弱点は情報の一覧性に欠けるため一括で網羅的に調べるのが難しいこと。正確度,更新頻度ともに申し分ないが,大量の情報から効率的に検索する術に乏しい。

管内図 (正確度:高,網羅度:低,更新頻度:?)

 管内図は道路管理者が自身の管理する道路を地図上で示したものである。管理範囲の端点から分断点が分かる。例えば,東京都第二建設事務所管内図(PDF)からは,羽田空港近くの国道357号の分断点が分かるし,三重県道路管内図の松阪建設事務所分(山側)は国道422号の分断点の推定材料になり得る。
 弱点は網羅性の低さ。管内図が見られる地域はまだ少ない。

道路交通センサス (正確度:中,網羅度:高,更新頻度:低)

 道路交通センサス(以下,センサス)は国道/都道府県道の全路線を網羅した交通量調査のデータである。各路線は他の国道/都道府県道との交差点で区間分割されているため,きめ細かく道路基本情報を得られる。この資料の区間延長をもとに分断点の推定ができることが比較的多い。
 弱点は更新頻度の低さ。更新は約5年に1回なので,実際の道路状況と合わないことが徐々に増えてくる。

道路統計年報 (正確度:低,網羅度:高,更新頻度:中)

 道路統計年報は道路や橋梁,トンネル等に関する総合的な資料である。そのうち,「道路の現況」に分類される「一般国道の路線別,都道府県別道路現況(表26)」は,国道の重複について調べるのに使える数少ない資料である。分断点の推定に役立つことも少ないながらある。更新頻度は1年に1回。
 弱点は各種情報の区間分割単位が路線別+都道府県別でありセンサスに比べて粗いことと,情報の正確性が低いこと。特に後者は残念。例えば,重複区間の二重計上が頻繁に発生して信頼性を損ねている。担当部署に指摘して「次版で修正する」との回答を得たものの修正されないまま数年経過しているため,正確度を期待しないほうがいい。

道路時刻表 (正確度:低,網羅度:高,更新頻度:なし)

 道路時刻表は国道の全路線について区間ごとの通行所要時間を記した資料である。各区間の道のりから起点/終点を推定できる場合がある(例:国道213号起点=北浜交差点)。分断点の推定に役立つこともあるがまれである。
 弱点は2007年以降更新されていないことと,正確性が低いこと。重複区間を正確に取り扱わずに起点/終点としている路線を割とよく見かける。

Wikipedia (正確度:中,網羅度:高,更新頻度:中)

 Wikipediaには国道全路線の項目があり,起点/終点等の基本的な情報が手軽に得られる。分断点について記載されている場合もある。ただ,出典明示の基本ルールに従っていない部分の記述は信用できないので,その部分の記述は使用しない。

現地の状況を調べる

 分断点と思しき地点付近を実際に歩いてみると次のようなものが見つかることがある。

  • 標識,標柱 (道路管理境界,国道番号,青看板,キロポスト,など)
  • 道路とその付帯設備 (舗装の境界,白線,ガードレール,街灯,など)

 これらは地図や各種資料が示唆する分断点の主張を補強してくれたり,時には,国道224号の桜島側分断点のようにどの地図も間違っていることに気付かせてくれたりもする。

道路管理境界標識

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 道路管理者が変わる境界に設置されていることのある標識。国が管理する国道の分断点の先に都道府県道が続いている等,分断点を境に道路管理者が変わる場合にはこれで分断点を特定できる。この標識は正確度が高く,分断点調査では重宝する。

 写真は徳島県鳴門市にある国道28号の分断点に設置されている道路管理境界標識。

国道番号標識と都道府県番号標識

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 道路の路線番号を示す標識で,国道の場合はおにぎり,都道府県道ではヘキサとも呼ばれる。国道の分断点の近くにはおにぎり標識が設置されていることが多いので,分断点推定の参考になることも多い。

 写真は広島県尾道市の生口島にある,国道317号の今治方面側分断点。手前の赤丸が国道317号の標識,奥の赤丸が広島県道81号の標識。このことから,両者の間に国道317号の分断点があることが分かる。

国道番号標識と都道府県番号標識 その2

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 路線番号を示す標識には方向を示す種類のものもある。この標識が左右一方だけを指している場合は,そこで国道が右左折するか,あるいは,分断点,起点,終点のいずれかである。

 写真は鹿児島県の奄美大島にある,国道58号の沖縄方面側分断点。赤丸の部分の上が鹿児島県道626号の標識,下が国道58号の標識。国道58号の標識は左側だけを指していることから,この交差点が分断点であると判断できる。

方面および方向の案内標識

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 方向と地名を路線番号と共に記した案内標識で,青看板とも呼ばれる。分断点直前の国道に設置される青看板には,分断点より先の国道路線番号が表示されなくなるので分断点がわかる。この標識の正確度は比較的高いが,一般利用者に対する分かりやすさのために意図的に正しくない路線番号が表示されることがあり油断できない。

 写真は鹿児島県の種子島にある,国道58号の鹿児島市方面側分断点。撮影地点は国道58号上だが,青看板にある通り,この先の丁字路から左が鹿児島県道582号,右が同県道581号となるので,国道58号はそこで分断していることが分かる。

キロポスト

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 路線番号と距離を記した標柱または標識で,起点等からの距離が1km毎や2km毎のように,きりの良い場所に設置されることが多い。距離が中途半端な場所に設置されている場合は,そこが分断点など特殊な地点であると推定できる。

 写真は沖縄県の石垣島にある,国道390号の分断点。起点から29.3km地点であることが示されている。なお,白線もここで途切れていることも分断点であることを裏付ける有力な材料である。

舗装境界と白線と道路鋲

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 道路の建設や補修が路線ごとに発注される場合は,国道分断点までとその先とでは工事業者や工事時期が異なる。このため,分断点では舗装や白線に境界線が見えることがある。

 写真は沖縄県の宮古島にある,国道390号の沖縄本島方面側分断点。左方面が国道390号,右方面が沖縄県道83号。その境界に舗装の継ぎ目が見える。路側帯の白線もそこを境に状態が変化している。
 さらに,赤丸で囲んだ部分には道路鋲が埋め込んであり, 拡大するとこんな具合。この道路鋲からは,この地点が国道390号であることと,工事区間の端点であろうことが読み取れる。
 なお,路面に延びた黒い影は沖縄県道83号の起点キロポストのものである。

各種材料の優先順

 ここまで述べてきた地図/資料/現地の状況といった材料は,誤りの少ないものから多いものまで種類によって様々である。分断点の推定は正確度が高い種類の材料をそうでないものより重視して行うのを基本とする。とはいえ,どの材料の主張を優先するかは主観的なもので人それぞれという側面はある。以下で述べるのは,当プロジェクトでのおおまかな基準である。

 まず最優先にするのは次の3つである。いずれも単独で分断点を特定でき,地図が何と言おうとそれをひっくり返す力があると思う。このグループ内で見解が分かれる場合は都道府県報を重視したい。

  • 都道府県報
  • 管内図
  • 道路管理境界標識

 続いて優先するのが次のものである。これらは分断点推定に大いに役立つが,単独で特定するには若干力不足を感じる。複数の材料を使って根拠を補強したい。

  • キロポスト
  • 国道/都道府県番号標識
  • 方面および方向の案内標識 (青看板)
  • 舗装境界など,道路や設備の境界
  • 道路交通センサス

 次のものは参考程度の資料である。単独では分断点を特定できない。主に上位の材料の主張を補強するのに使う。

  • 地理院地図
  • Googleマップ
  • MapFan Web
  • 道路統計年報
  • 道路時刻表

 次では,これらを踏まえて分断点推定を行った例をいくつか挙げてみる。

分断点の推定例 その1 (羽田空港付近の国道357号)

 羽田空港付近の国道357号分断点は分断点の特徴を満載している。Googleストリートビューで羽田空港の付近を見ると,分断点またはその前後で次に挙げるような多くの特徴を観察できる。

  • 道路管理境界標識がある
  • 青い円柱状のキロポストがある
  • 車道の舗装が異なる
  • 歩道の舗装が異なる
  • ガードレールの形状が異なる
  • 街灯の形状が異なる
  • 国道の街灯にはおにぎり標識シールが貼ってある

 道路管理境界標識がある上,同じ場所に舗装/ガードレール/街灯ほかの各種特徴も見られる。さらに,東京都建設局第二建設事務所の管内図もここが分断点であることを示しているため,ここが分断点と見てまず間違いない。なお,この位置は調べた範囲の他のどの地図の記載とも異なるが,ここは地図の方が間違っていると判断するべきだろう。

分断点の推定例 その2 (徳島県の国道193号)

 続いて,徳島県名西郡神山町にある国道193号の分断点を推定してみる。決定的な材料はないものの,次のものを組み合わせて推定を試みる。

  • 地図
  • 道路標識
  • 交通センサス

 地図1に周辺の関係各地点を示す。

地図1. 国道193号の分断区間

 まず最初に,3種類の地図が示す分断点の位置を整理すると次のようになる。

  1. 分断点なし - MapFan Web
  2. 地点G - Googleマップ
  3. 地点J - 地理院地図

 このように,国道が連続していて分断点が存在しなかったり,地図毎に分断点の位置が異なっていたりと,分断点の見解は三者三様である。このうちどれが最も妥当かを他の材料から検討する。

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 この写真は地図1の地点Bにある国道番号標識。一見するとこの地点は国道193号に見えるのだが,下の補助標識を見ると「山川海南線」と,徳島県道253号の路線名が記されており,実際には国道193号ではないことがわかる。

 ということは,一本の道でつながってはいるものの国道193号はどこかで分断していることになり,分断点なしというMapFan Webの見解は誤りということになる。

 次は平成22年度道路交通センサスの徳島県版Excelファイルを見る。その246行目に交通調査基本区間番号が36301930160の区間がある。この行の内容から次のことが読み取れる。

  • この区間は国道193号である。
  • この区間の起点側端点は国道438号との交点である。(地図1の地点A)
  • 終点側端点は山川海南線(=徳島県道253号)との交点である。
  • 終点側端点は国道193号の端点と山川海南線の端点との接続点である。(接続区分=4)
  • 区間延長は4.5qである。

 これらのことから地点Aから4.5qの地点が国道193号の分断点であることが分かる。地点Aからの距離はそれぞれ,地点Jまでが4.5km,地点Gまでが6.5kmであることから,地理院地図が示す地点Jが正しいようだということが分かる。

 ここまでで地理院地図が示す地点Jが国道193号の分断点であろうことが分かったわけだが,もう少し根拠の補強をしてみたい。

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 この写真は地図1の地点5にある落石注意の標識。その下の補助標識に「徳島 A253 A005 徳島県」とある。A253はここが徳島県道253号であることを表している。A005は5番目の標識という意味。
 地点4にはA004,地点3にはA003,地点2にはA002,地点1にはA001の同様の標識があり,いずれもA253の表記がある。このことから地点1が県道253号であり,かつ,分断点に近いと分かる。
 これは地理院地図の示す地点Jが分断点であろうという,道路交通センサスから調べた結果と矛盾しない。

 余談だが,この落石注意の標識はA001から始まり,地点Bの200m手前のA023まで続いている。


作成日:2016/06/14
更新日:2016/06/14